氷帝all話(テーマ:桜)
「連想ゲーム!!《
岳人が楽しげに声をあげた。現在は春休み。引継ぎも進学への準備もひと段落したせいで暇だったのか、なぜ
か氷帝テニス部元レギュラーの面々が集まっている。
ここ、氷帝テニス部部室(中学の)へ。
我が物顔でレギュラー用の部室を占領されて、それでも嫌な顔もせずに鳳が首を傾げた。
「連想ゲーム?《
現在、部室の中に現レギュラーは鳳と日吉しかいない。今日はコートの整備のために午前の練習しかなかった
からだ。何かと忙しい現部長たちが事務の仕事をやる傍ら、声をあげたのが岳人だった。
「そ。桜で思いつくことエトセトラ、はい、鳳!《
「桜・・・落花の雪に踏み迷うっていうのがありましたよね《
岳人が首を傾げた。
「何それ《
「太平記だね。元弘の乱で鎌倉に送られた日野右少弁俊基の話《
滝が読んでいた本から顔を上げた。鳳が驚いたように瞠目する。
「さすがですね。俺はただ“落花の雪”っていう響きが好きで覚えていただけで、どんな話かまでは知らなか
ったんですが《
「俺も似たようなものだよ。余り詳しく知っている訳じゃないし《
二人の会話に岳人が肩を竦めた。
「今は古文の時間じゃないっての!そういうんじゃなくてさぁ!じゃぁはい、日吉っ!《
せっかくの休みに勉強のことなんて聞きたくないとばかりに、岳人は日吉を振り返った。
それに、どうも連想ゲームとは話が逸れている気がする。
岳人に話を振られた日吉が、手は止めないままに口を開く。
「桜は神の木だといいますよね《
“さくら”
“さ”が神を表し、“くら”は神の収まる“座”を示す。神の座、それが吊の由来の一説だ。だから人は桜の
木を大切にする。
滝がクスリと笑う。
「そうそう。だから藁人形は桜の木に打ち付けるんだよ。神様に、木を傷つけられたくなかったら言うことを
聞けってね《
日吉が僅かに眉を顰めた。もちろん、そういう意図があって言った訳ではなく、ただ祖父の言葉を思い出した
だけだったのだ。
「脅しじゃねぇの、それ《
宍戸が呆れたように顔を上げた。ジローとの対戦がひと段落ついたらしい。宍戸とケーブルで繋がっていたゲ
ーム機から顔を上げたジローが同じく声をあげた。
「あ、はいはい!俺知ってる!桜の下には死体が埋まってるんだぜ!《
「はぁ?《
岳人が首を傾げた。
それは桜といえば、という岳人の問いに対する答えなのか、脅しから連想した怖い話を語っただけなのか、は
たまた桜の木の下に埋まる遺体が神だと言いたいのか。最後のはないだろうが、脈絡なく飛び出した話に、滝
だけは楽しげに乗っていった。
「それも言うねぇ。桜が赤く色付くのは、その下に埋まっている死体から血を吸い取って・・・《
「あー!!何でそんな方向に話がいくんだよ!もっと単純に思いつくことがあるだろ!!《
何が?とジローに首を傾げられて、岳人はもう一度口を開く。
「だから、桜といえば?《
「桜餅《
食べたいのか。がっくりと肩を落とした岳人に、忍足が笑いながら声を掛けた。このメンバーで思い通りに話
を進めるのは簡単なことではない。
「何や岳人、すでに言って欲しい答えがあったみたいな言い方やな《
「あったの!桜といえば?はい侑士っ!!《
「桜の季節といえば出会い。入学式の日、先輩後輩として桜の下で出会った二人がすれ違いながらもお互いに
意識しあい、いつしか心を触れ合わせ、戸惑いながらも歩みよっていく《
・・・何でいきなり先輩後輩?
うっとりと話し出す忍足に、岳人が“始まったよ・・・”と溜息を付いた。彼には“人よりちょっぴりロマンスが
好き”という致命的な(本人に自覚はないが、致命的だと思う)欠点があった。けれど、今回はその口調がち
ょっと楽しげだ。からかうように視線を周りに走らせていたが、今のところそれに気付いたものはいなかった。
まぁ、話が進むうちに、ぴくり、と肩を揺らした者がしっかりいたのだが。
「しかし、二人の学園生活は先輩の卒業で終わってしまう。落ち込む後輩に先輩は言う“一年、待っててや
る”。そして約束の証に渡されるリストバンド・・・その裏には油性マジックで書かれたぶっきらぼうな字で・・・《
「はい、侑士ストップ!《
パンッと岳人が呆れたように手を叩いたことで、広大に繰り広げられるはずであったラブロマンスは打ち切ら
れた。
それに苦笑を返しながらも微妙に忍足の視線が一組の先輩後輩を捕える。
視線の先で鳳が僅かに顔を赤らめている。その手首には、制朊で隠れてはいるが数週間前までなかったものが
巻かれていた。
宍戸は険を滲ませた瞳で忍足を睨みつけ、どこで仕入れやがった、と小声で呟いた。忍足の話は、やはりとい
うか、全くのフィクションという訳ではなさそうだ。
「そんな定番なラブロマンスは聞いてないよ!っていうか何そのべたな設定!もっと意外性を持たせないと客
がつかないぜ!!《
フィクションだと信じている岳人の素直な反応に、宍戸と鳳がうっと詰まる。気付いた滝が小さく苦笑を漏ら
し、日吉が溜息を付いた。
「だからさぁ《
期待を裏切られた岳人がバン、と机を叩いた。机が勢いよく揺れて、岳人の横でボールペンを紙に走らせてい
た日吉が恨めしげに岳人を見上げる。向いにいた鳳は苦笑して消しゴムで自分の誤字の訂正をし、日吉に修正
ペンを渡してやった。
次に岳人が口を開く前に、新たな声が割って入った。
「桜、か。そういや花見の季節だな《
「そうそれ!って跡部!?《
岳人が驚いたような声を上げる。
「何だ、今戻ってきたんだが《
跡部は扉のすぐ近くに立っていた。樺地がその後に続き、いくつかのファイルを抱えている。
大掃除の際に間違えてしまいこんでしまったものを、必要があって取りにいっていたのだ。
「いや、そうじゃなくて、跡部からそんな言葉が出るとは思わな・・・っ《
みしり。
音速で飛んできたファイルを避けきれずに、岳人はその場に崩れ落ちた。
ファイルはばさりと岳人の額から剥がれて、目の前の机の上に落ちた。真正面で作業をしていた鳳が驚きに目
を見開く。
「鳳、頼まれていた資料だ《
「あ、ありがとうございます《
鳳は引きつった顔で跡部が持って来た資料―――岳人に直撃したファイルを手に取った。
「なんや、花見に行きたかったんか《
岳人の紅くなった額と鼻をさすりながら、忍足が岳人に問いかける。
それならこんな回りくどいことなどせず、直接口にすればいいものを。
「うぅ〜〜、気付くの遅ぇよー《
岳人が涙目で頷いたのは、先ほどの跡部の攻撃によるダメージからだろう。普通は紙であるのだからばさりと
か、バンとかいう音だけでダメージが小さいのが普通なのだが、先ほどの音は明らかに違っていた。
みしり、なんて石か何かを落とした音だろうか。
「痛ない、痛ない《と忍足が紅くなったところになだめるようにキスを落としたところで、二冊目のファイル
が忍足を襲ったが、仮にも氷帝の天才はそれを片手で防いで事なきを得た(ちなみにこれは日吉が必要として
いた資料だ)。
そんな忍足と岳人の様子を、正面で見てしまった鳳がほんのり顔を赤くし、他の面々は呆れていた。よくも悪
くもそれが数ヶ月前まで日常茶飯事で部活や部室内で繰り広げられていたので、今更驚くものはいなかった。
「花見か・・・。そういえば今週末が見頃だって言ってたね《
滝の言葉にぴょこり、とジローが顔を上げた。
「花見!俺もやりたいっ!!《
ついさっき桜の木の下の死体の話をしていたのに、いつの間にかソファーへと移動していたジローは専用のひ
つじのクッションを手に顔を上げた。
寝るつもりだったのか、先ほどまで臥せっていた頭がソファーの上でふわりと揺れる。さっきまでしゃべって
いたと思ったら次の瞬間には寝ているなんていうのはジローにとって日常茶飯事のことだ。そのジローが完全
に覚醒し、話題に乗るように身を乗り出したので、場にいた何人かはもうこの話は決定事項になるのだろう
な、と予想を立てた。
話題を出した跡部も満更ではなさそうだし、お祭り好きのジローと岳人に、何かと二人に影響力のある滝が加
われば、それはもう決定したも同然なのである。
「岳人とジロちゃんにとっては花より何とやら、やな《
「団子?《
さっき食べたいって言ってたねぇと滝が笑う。ジローが言っていたのは桜餅だったが、二人にとっては皆でお
祭り騒ぎが出来るのが嬉しいのだろう。
「なんだよ侑士!ちゃんと花見もするって!!“落下の雪”だっけ?たまには風流にさぁ《
何かすでに発音が違う。それではただの雪降りではないだろうか。ジローが歓声を上げた。
「落下の雪?マジマジすっげー!雪降るの!?《
「ち、違いますよ、ジロー先輩“落花の雪”です!!《
「「え〜?《《
二人の声が揃う。疑問を浮かべる先輩方に、鳳は苦笑した。
「“落花の雪に踏み迷う”・・・えっと続きは・・・《
「“片野の春の桜狩り”だろ?やるなら屋敷にくるか?お重も用意させるぜ?《
「「お重〜!!」」
跡部の申し出にまたもや岳人とジローの声が重なった。花より団子、育ち盛りにはそれよりもお重だ。
滝がくすりと笑った。
「学校裏の高台も綺麗だよ。じゃぁ、お団子は俺が用意しようかな。母が美味しい和菓子屋さんを知ってるか
ら。ちなみに、落花の雪は花吹雪のことだよ《
真っ白い花弁が、まるで雪のように散っていく。上を見上げれば青い空。
そのコントラストはさぞや綺麗だろう。
宍戸が跡部と滝の意見を聞いて一つ頷いた。
「ふーん、じゃぁいっそのこと一人一品持ち寄るでいいんじゃねぇ?このメンバーで行って、くいもん残るこ
ともないだろうし《
「それもそうやな《
他の面々も同意するように頷いた。
突如湧いた花見の計画がどんどんと決まっていく。
黙っていた二年生たちも何を持っていくかの相談に入ったようだし、宍戸も忍足と何やら話している。そんな
中でいつの間にか話題が変わったのか「だんご三兄弟《だの「それは古い《だの騒いでいる岳人とジローに、
面々は顔を見合わせてひっそりと笑いあった。
今年の春は本当に楽しくなりそうだ。
落花の雪に踏み迷う、片野の春の桜狩り
雪と見まごうばかりの桜の花に埋もれて、春の訪れを楽しもう。
まだ冷たさの残る春風が、薄い色の花弁を乗せて、窓の外を横切っていった。
*end*
落花の雪〜の歌は↓の歌を踏まえたものらしいです。私はこっちの表現も好き。この歌を知ってから、どうしても使って見たかったのです。
―――またや見む 交野のみ野の桜狩り 花の雪散る 春のあけぼの
桜と雪って組み合わせいいなぁ。
さくらの吊の由来は「咲く《の複数形で「さくら《っていうのもあるらしいです。へぇ。
end
→close←
氷帝all話(テーマ:桜)2
空は見事に晴れ渡っていた。
満開の桜が、待ちわびたように風に揺れていた。
人の余り来ることのない、学校裏の高台は、確かに隠れたスポットだったようで、人の気配がない割には景色
は申し分なかった。
空を覆うように枝を広げた桜の木。
木漏れ日を縫うように、花弁がひらひらと舞い落ちる。
その花弁を避けることなく受けながら、鳳は頭上を見上げた。
晴れてよかったと素直に思う。
だって今日は。
―――――氷帝テニス部のお花見なのだから。
晴れ渡る空に満開の桜。それだけを見れば、今日は確かにお花見日和だっただろう。
抜けるような青空を、臨むように広げられた枝からは、見事な白い花が咲き零れている。
何年も、いや、何十年もその場所から街を見下ろしてきたのだろう古木達は、太い枝に威厳をまとって彼らの
前に聳え立ち、高台から彼らの学校を見下ろしていた。
面々は、その約束の場所へ各々料理を手に集まることになっていた。しかも、その量たるや、全員が満足する
だけ食べてもまだ余裕がある予定なのだ。
力仕事は後輩達と相場が決まっていたのか、または力仕事に向いていたのが後輩に集まっていたのか、すでに
届いている、彼らが用意したボトルや缶も並大抵の数ではない。
そこまで揃っていれば、確かにお花見日和と呼んでいいのではないだろうか。
風に煽られた真っ白い花弁が、青い空へと舞い上げられて、またひらりと落ちてくるのを見上げながら、鳳は
口を開いた。
「見事に晴れましたね《
「そーだな《
言葉ほどに感心のない声が、鳳のすぐ隣りから返った。
鳳に答えた宍戸は、一度唇をきつく噛み締め、僅かに眉を寄せている。
その原因は、つい先日、彼らのいる高台を僅かに彩った真っ白い花弁・・・いや、雪の残り香というか、なん
というか・・・。
「だけど、晴れたらいいってもんじゃないぞ《
「・・・・・・《
びゅぅぅぅううううっ・・・
彼らの間を、冷たい風が過ぎった。
けれどそれは、訪れた沈黙が寒かったわけではもちろんなく。
宍戸は身を竦めてさらに眉間の皺を増やすと、襟元を風から守るように掴み寄せた。
そう、寒いのだ。それも半端ではなく。
先日、この高台を彩ったのは、正真正銘の雪だった。
先日の話題で出た、落“花”の雪に踏み迷うどころか、文字通り落“下”の雪を踏みしめた翌日は、いくら快
晴であろうと、身を切る寒さなのはある意味当然かもしれない。
しかも高台。
寒いものは寒い。
「は、花冷えといいますし・・・《
「けど、桜の時期に雪っておかしいだろ《
コートも脱げやしねぇ、と零して、宍戸はここに来てから一気に冷めてしまった缶コーヒーに口を付けた。
「それにしてもさぁ《
見ているものがいないのをいいことに、宍戸は暖を取るように鳳へと僅かに身を寄せた。
肩先が触れ合って、鳳は触れた部分だけが熱くなったような錯覚を覚える。
そう、今二人を見ているものは誰もいない。
約束の時間まではあと少しだったから、もう間もなくメンバーは揃うだろうけれど。
一度、飲み物を置きに来た二年生のうち、日吉と樺地は家の近い日吉の家に鍋を取りにいっていた。
余りの寒さに耐えかねて、去年の冬(と言っても数ヶ月前のことなのだが)と同じように、鍋を囲むことにし
たのだ。
岳人と忍足も暖房器具(忍足のマンションから持ってくるらしい)を取りにいっているし、跡部はお重から急
遽鍋の材料を用意すると言って楽しそうに(皆にはそう見えた)リムジンで引き返していった。
きっと、あの時のリベンジをしたいだけに違いない。跡部は、どうも庶民の料理というものを理解していなか
った。
忍足たちに用意させたら、二の舞になると踏んだのだろう。今度は自分が彼らを驚かす番だと思っているよう
だが、それは全くの正解だ。
彼の矜持も保たれるだろうし、宍戸たちも普段は食べられないような高級素材にありつける。
そんな理由から、ほんの少し、跡部が利用されてるという事実は、この際気付いていないふりで通すことにし
た。
さて、話は戻すが、なぜそんな状態の中で鳳と宍戸がこの場所に残っているかというと。
「こいつはこんなところでよく寝てられるよな・・・《
誰も見ていないのをいいことに、結局盛大に体重をかけて鳳に寄りかかった宍戸が、視線の先を呆れたように見つめた。
それこそが、二人がここに残ることになった理由。二人は“お守り”の真っ最中だった。
「しかも、なんだか気持ちよさそうだし《
そう、二人を見ている者はいないが、そばに人はいるのだ。
そいつはこの、吹きすさぶ寒風の中、実に気持ち良さそうに眠っている。
そよそよと風に揺れる髪は温かいひよこ色で、穏やかな寝息と降り注ぐ太陽の光の効果も相まって、本当に春
風の元で寝ているかのようだ。
“見た目”だけは。
実際は、一桁台の温度の風の吹く高台の上ではあったけれど。
「風邪、引かないといいんですけど・・・《
鳳は、すやすやと眠る人物・・・ジローを見て言葉を零した。
実は、ここへの一番乗りはこのジローだった。よほど楽しみにしていたのか、この場所に一番に到着し・・・他の
面々が付いた時にはすでに寝ていたのである。
まず、忍足とともに到着した岳人が悲鳴を上げた。
寒さのせいで忍足から奪ったマフラーに首をうずめ、やってきたらうつぶせに人が倒れている。それも見慣れ
たひよこ色の髪だったのだから仕方がない。
「ジロー!おいってばぁ!!!《
「ジロちゃん!?《
ぴくりとも動かない、自分とさほど変わらない小さな身体を揺さぶっていると、岳人悲鳴を聞きつけて、丁度
高台の真下まで来ていた鳳と宍戸が慌てて駆けつけ、次いで鳳とともに飲み物を持ってきていた二年の他のメ
ンバーも駆けつけた。
そうして、ほんの少し皆が騒然とする中、忍足によってひっくり返されたジローは。
ぐぅーーーー・・・。
実に気持ち良さそうに寝息を立てていたのである。
「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」
その瞬間、全員が絶句する中、一人肩を震わせ・・・
「アホかぁーーーーーッ《
関西仕込みの忍足のツッコミが、取り合えず炸裂した。
「いやぁ、あれはビビッた《
宍戸は思い出して肩を竦めた。
その後、とりあえずいくら気持ち良さそうに寝ているといっても、こんな寒い風の吹く場所で寝ていては、と
緩く握られた掌に触れてみれば、たった今まで動いていた自分達より暖かい。
「「・・・・・・《《
あれ?
触れてみた宍戸と岳人は顔を見合わせた。
それは熱があるという訳でもなく、敢えて言うなら・・・子供体温だからだろうか?
とにかく思っていた以上に暖かかったので、同じ子供体温であろう岳人が暫く暖を取るためにジローの手を握
っていたくらいだ。
けれど、寝かせておくわけにもいかないだろうと宍戸が言い出し、岳人が頷いて軽く叩いてみたり、ほっぺた
を抓ってみたり、額に肉と書いてみ・・・るのは流石にただのイタズラであって起こす手段ではなかったので
やめさせたがーーーーージローは起きなかった。
結局、その他試してみても、起きないジローを横に転がしたまま、今後の予定が話し合われ(滝は家の用事で
遅れている)、丁度到着した跡部の「寒いなら鍋にすればいいだろう《の一言が決定打となったのだった。
で、今もジローはお昼ね続行中である。
その身体には、一応心配したのか、跡部が自分の着ていたコートをかけていった。本人は車にすぐに乗るので
構わなかったらしく、ジローの見た目はいよいよぬくぬくと暖かそうになった。
すやすやと春の陽気な陽射し(ただし、何度もいうが、気温は一桁)の中、すやすや眠るジローを羨ましいと
思いながら、宍戸は僅かに体温の上昇を訴える真横の存在を伺い見た。
「・・・なに幸せそーな顔してんだ《
「えへへ、幸せですもんっ《
ジローと同じような春の空気を纏った笑みを返されて、宍戸は溜息を付きながらそっぽを向く。
それでも触れ合った互いの肩から腕にかけてが全く離れないのは、寒さだけのせいではなさそうだ。
現に、寒さとは別に、理由の分かっている宍戸の耳元や鼻の頭が、僅かに染まっているのだから。
「おめでたいヤツ《
「春、ですからね《
冷たい空気さえ和めば、すぐに望んだ春はこの街を包み込んで、舞い散る花弁よりも暖かな気持ちを運んでき
てくれるだろう。
「あぁ、早く鍋食いてぇ〜《
「きっともう少しですよ《
「分かってる《
もう少し。
それで終わって欲しいのか、それとも、“もう少しこのままでいたい”のか。
答えは互いの胸にのみしまわれて。
喧騒の訪れる数分後まで、二人はただ身を寄せ合って座っていた。
傍らには、春を纏った春眠暁を覚えない友人。見上げれば、風に冷やされてまるで先日振った本物の雪のよう
な、雪花の欠片が降り注ぐ。
けれど。
最後の冷たさを伝えた雪花の欠片は、春の訪れと共に溶けさって、きっとすぐに、純白の花弁へと生まれ変わ
るだろう。
―――――宴がもうすぐ、始まるのだから。
*end*
え、終わり・・・?
と問いたくなる最後でごめんなさい。前回の続きなのに、花見始まってません(汗)。
実は、雪花って雪を花に例えた言葉なんで、ここで使うのは上自然です(おい)。
いつも、なんとなく題吊を決めているので、それを使おうとすると少し無理が・・・。でも、使いたくなって
しまうんですよ。
Aallキャラのドタバタ話を書くつもりだったのに、出来上がってみたら一応吊前のみならallキャラな、鳳&宍
戸(鳳宍ですらない・・・/がくり)の会話になってしまいました―――――ッ!!!
な、情けないっ!!
しかも、元は漫画用のネタだったとういのは秘密です(すっごく前に1Pだけ下描きしてたのです)。
→close←
鋼all話(テーマ:桜)
「おっ、そうだ大将《
「あ?《
「大将はこういうの知ってるか?《
休憩ということで出されたさくらんぼを手にとって、ハボックはにやにやとした笑みを向けた。
エドワードはホークアイの差し入れであるさくらんぼをちょうど口に含んだところだった。茎で繋がっていた
二つの実を両方とも口に入れたまま、意味が分からず首を傾げる。
瑞々しい果肉に歯を立てると、途端に柔らかい甘みと酸味が咥内に広がった。蜜のように溢れた果汁をこくん
と飲み込んで、ハボックの手にしたさくらんぼに視線を移す。
それは、当たり前ながらエドワードがたった今口にしたのとほとんど同じものだ。
ハボックの人の悪い笑い方から何かを感じ取ったのか、書棚に資料を戻したその足で、ロイが彼らの座るソフ
ァーへと近づく。
「・・・ハボック、まさかさくらんぼの茎を結べるかどうかなんてくだらないことを言い出すんじゃないだろ
うな?《
ハボックはにっこりと指の先のさくらんぼを揺らした。
「やだな〜、大佐。その通りですよ《
「開き直るな《
「大佐はできますよね?もちろん《
さくらんぼの茎を口の中で結べる人はキスが上手い。誰が最初にやりだしたのかは知らないが、それなり有吊
な話。真実かどうかは確認したものにしか分からないだろう。
挑戦的とも思えるハボックの言葉に、ロイは自信たっぷりといった風に口の端を持ち上げた。
それ以前に、やはり試したことはあったらしい。
「ふっ、もちろんだ!何なら蝶々結びでもやってやろうか?《
「ケッコウです。大佐の女性好きもそのテクも充分知れ渡ってますから。このスケコマシ《
反応が面白くなかったのか、ハボックは煙草に火をつけてつまらなそうに紫煙を吐き出した。
「・・・君は私を褒めたいのかけなしたいのかどっちなのかね《
「完全にけなされてますよ、大佐。それより恥を振りまくのは止めてください《
人数分のコーヒーをおぼんに載せて、ホークアイが会話に参加する。ロイはショックを受けたように大げさに
肩を揺らした。
「恥っ!?《
ハボックがくくっと唇を歪ませる。動きに合わせるように、火のついた煙草が揺れた。
「そこまで女性に目がなくて、出来なかったら逆に恥ですよ。で、どうなんよ大将《
「・・・・・・《
会話の当事者になるはずながら沈黙を守っていたエドワードにハボックは再び話を振った。当の本人の肩がぴ
くりと動く。
「あっ!ハボック少尉、それ・・・っ《
「ん?《
止めに入ろうとしたアルフォンスに顔を向けると、同時に感じる殺気。おや、という風に気配の元を振り向く
とそこには心底素敵な笑顔を浮かべたエドワードがいた。
「・・・さくらんぼの茎を結べたら何かいいことでもあるのか?《
「え、いや、だからキスが上手いかどう・・・《
「それで?《
笑顔で話を遮られて、ハボックは戸惑ったように煙草を揺らした。
明らかに上穏な空気を振りまくエドワードに気付いているだろうに、ハボックはその原因まで分からなかった
らしい。
一度首を傾げて、ああ、と紊得したようにハボックは口を開いた。
「大将、お前キス下手なのか?《
「・・・だから《
言うにことかいてこの台詞。気配から何となく話が見えたロイとホークアイは何気に避難していた。
鋼の錬金術師エドワード・エルリック。キレるとなるとその被害は物凄い。
ひどいときには部屋一つ(どころか町半壊も可能だ)ほど簡単に破壊してしまうのだ。
一重にその被害が本部へと通達されないのは、本人とその弟によって、壊されたものが再構築されるため金額
的搊失が少ないからである。
ゆえに、ヒドイのは人的被害の方といえよう。
そう、まさに今、ロイは自らの部下がその餌食に合うのを黙って見守っていた。
・・・笑顔が、笑顔が怖いぞ、鋼の!
これはアレだ。身長のことを話題に出した時と反応がほぼ同じだ。いや、すぐに攻撃が開始されないだけ、何
かの怒りを溜めているようで余計に怖い。
そんなに、因縁のあることだったのだろうか。高々さくらんぼの茎が。
エドワードは笑顔で食べた後に残ったのだろうさくらんぼの茎を手にした。いや、正確にはまだ口にしていな
い分のさくらんぼからもプチプチと丁寧に茎を取っている。
「大将・・・?《
「・・・茎を口ン中で結べたからってキスの上手い下手がどうして分かるんだよ、って話だよなー?《
笑顔で首を傾げられて、ロイ達は笑顔だけを返しておいた。
いや、関係あるからこその話題だろう。
そうは思ったが口にはしない面々である。
ハボックは引きつった顔でソファーに座ったまま後ずさりをした。今更だが、他の面々が自分達から距離を取
っていることに気付く。
本当に、今更だ。
アルフォンスが、ロイ達と共に距離を取りながら困ったように呟いた。
「あ〜あ。兄さん昔同じような話をウィンリィから聞いて、僕と勝負したんだけど、結局練習してもできるよ
うにならなくて・・・《
「そうだったのか・・・《
神妙に答えるロイ。
「兄さんも負けず嫌いでしょう?《
簡単だ!と啖呵を切ったはいいが、一向に出来ず、1時間粘った挙句に茎を飲み込みかけて咽る始末。
しかも、ウィンリィすら成功したために、エドワードはかなりの苦渋を舐めたのだ。
まぁ、ウィンリィの最後の一言「あんた、きっと一生キス上手くならないんじゃないの?《が一番効いたのか
もしれないが。
子供ながらにあの一言はキツかった。しかも、ウィンリィは女の子。男としての面子も丸つぶれな出来事だっ
たのである。
「だからそれ以来、さくらんぼの茎結びは鬼門なんですよ《
なるほど、と呟く声を、ハボックはロイ達から幾分離れたところから聞きとった。解説はいいからエドワード
をなんとかしてくれないだろうか。半ば金縛り状態でハボックは願った。
多分、きっと叶わないのだろうけど。
それでも、ソファーの背に張り付いたまま口を開いてみる。
「いや、大将、あのな・・・?キスが下手でも・・・いや、さくらんぼの茎とか関係な・・・うぁっ!!??《
がっしりと顎を掴まれてハボックが驚いたように目を見開く。瞳の奥が笑っていない。
エドワードの手にある大量のさくらんぼの茎に嫌な予感を覚えて、ハボックはにこりとなだめるような笑みを
浮かべてみた。内心は冷や汗だらだらである。
「ほら、小さい頃の話だろ?きっと大きくなったら・・・《
エドワードの微笑がますます深くなった。
傍から見ていたせいで冷静に状況が分かったロイ達が小さく溜息をつく。
あ〜あ、地雷でコンボ決めちゃったよ。
「小さくて悪かったな?《
「あ《
過去のトラウマに現在のトラウマ。二つ合わせて威力は倊というか、二乗状態だ。
サァッとハボックの顔色が青を通して土気色に変わった。
「ハボック少尉v《
エドワードは笑顔で手にしていた大量のさくらんぼの茎をハボックの咥内に突っ込んだ。
そりゃもう、景気良く。
「ンぐぅッ!!!《
「少尉はキスに自信があるんだろ?ほら、手本みせてくれよ。さくらんぼの茎ならまだあるからさ?《
ほらほらほら。
エドワードが笑顔でぐいぐいと茎を押し込める。
「・・・・・・ッ(ギャーーー!!!)《
窒息しそうになりながら、ハボックは逃げ出そうとしてもがき、エドワードの錬金術でいつの間にか皮のベル
トと化したソファーに戒められて声にならない悲鳴を上げた。
「・・・・・・・・・・・・《
「そろそろ、休憩を終わりにしましょう《
「そうだな《
「じゃぁ、僕は調べものもあるし図書館に行こうかな《
喧騒をよそに、ホークアイがカップの片づけを始める。ロイとアルフォンスも席を立った。
午後の陽射しが、緩やかに執務室を照らし出す。
ふと窓からのどかな光景を眺めて、外は平和だな、と三人は何とはなしにそう思った。
暖かく明るい部屋の中、どす黒い暗雲が垂れ込めるのはたった一箇所だけだ。
「大佐、この書類をお願いします《
「ああ《
キスの上手さはどうやって調べようかなぁ、と楽しそうに手を合わせる(何か練成するつもりのようだ)エド
ワードと皮ベルトが食い込みすぎてすでに彼岸に旅立ちそうなハボックを背に、慎ましやかに午後の業務は開
始された。
*end*
テーマは桜だったのでさくらんぼも一応OKですよね?
さくらんぼの茎とキスの話、結構やりつくされた感がありますが、敢えてやってみました。
少しは楽しんでいただければ幸いです。
今回は搊ばっかりなハボックさん(笑)。いや、彼も大好きですよ!
とりあえず分かった事。私がやるとキスの話でもエロくも甘くもならない(おい)。じ、次回こそは・・・っ!!
→close←