「宍戸さん、trick or treat!!」


普段通り二人きりの帰り道。夕日で染まり始めた空の下で言われた言葉に、俺は隣りを歩く長太郎を振 り返った。
やっぱりか。宍戸は笑いたくなるのを堪えながらポケットの上から残り一個となったミントガムを確認 する。
目の前には、こんなことのために一生懸命になっている長太郎がいる。
ジローにあげたアメをガムだと勘違いしているこの後輩は、今ここで自分が最後の一個のミントガムを あげたらどうなるだろう。

「・・・・・・」

緊張した顔が、少しの期待とともに無言の俺を見つめている。その顔を見つめて、宍戸は逡巡した。何 故か、長太郎のがっくりした顔は見たくなかった。
・・・どんなイタズラが待っているかはしらないが。

「意味、分かります・・・?」
「・・・・・・」

無言は肯定と認められたらしい。長太郎は満面の笑顔を浮かべながら小さい声でお菓子くれないからで すよ、と言って誰もいないのを確認するとそっとキスを落とした。
もちろん、唇へ。
瞬間俺は目を見開く。まさかこう来るとは。予想外の“イタズラ”に驚く俺の先で照れたように鳳は笑 った。
子供のように嬉しそうな顔。
やっぱ長太郎が好きだなんて実感してしまうのはこの笑顔を見たときだ。
甘い唇が去っていくのを見届けて、わざと不機嫌そうな顔を作ってみる。今日は特別。
心の中では普段だったら殴ってるぞ、と一言呟いたけれども。

たまにはいいか。
ポケットには、誰の手にも渡らなかったミントガムが一つ。
それをなかったものとして、俺は満足そうな顔をした長太郎を見上げた。

「あ」
「?どうしたんですか、宍戸さん??」

一つ思いついた“イタズラ”に俺は作っていた不機嫌そうな顔を崩した。
にやりとできるだけ凶悪そうに微笑んでやる。それを見た長太郎は案の定びくりと肩を揺らした。
そりゃそうだ。普段の俺は先ほどのような行為を許しはしないのだから。
報復されると思ったに違いない。
そんな姿を内心で笑いながら、凶悪な笑みは崩さずに。
だってあんなに必死になってるのを見てしまったら、イタズラにのってやってもいいと思ってしまうだ ろう。
だから本当は全然報復する気はないのだけれど・・・

「長太郎、trick or treat!」

やっぱり反撃はしたくなるんだよ。
「えっ?えっ?!」
イタズラを思いついた顔はまさにジャックオーランタン。一瞬目を見開いた長太郎は慌てたように鞄の 中を探し出した。
正確には、探そうとした。
カバンを覗こうと下げた顔に素早く近づいてついでに目の前のネクタイをひっぱってやる。
お菓子を出す暇なんて与えるつもりはない。
「遅い。いたずら決定な」
一言そういって拳を振り上げ、さらに笑みを深くして一言。

「さっきのお返し。歯ぁくいしばれ?」

長太郎は慌てたようにぎゅっと目を閉じて歯を食いしばった。
浮かんだ俺の笑みはいたずらっぽくはあったけど何だか幸せなもので。でも長太郎なんかには見せるつ もりはない。
掴んだネクタイをさらに引き寄せて、一層身体を硬くした長太郎に俺は自分の顔を寄せた。
触れたのは一瞬。
先程と同じ、柔らかい唇の感触。余韻。
そして。


彼と同じ“イタズラ”


びっくりしたように目を見開いた長太郎に顔を見られる前に背を向けてさっさと歩き出す。
いたずらっぽい笑みはいつの間にか照れ笑いに変わっていた。

あぁ、こんな俺は激ダサかもしれない。
自然と綻ぶ口元を見られたくなくて、突然のことに対応できずに「へ?え、あの?」と意味不明な言葉 を綴っている長太郎を置き去りにどんどん前へと進んでいった。
影が濃く道を彩っている。
下を向いて歩いていたことに気づいて、俺は苦笑した。
ようやく我に返ったのか追いかけてくる気配を感じながら、俺は赤く染まる空を見上げた。
空は灯るろうそくよりも鮮やかなオレンジで埋め尽くされている。
その下にいる俺たちは、やっぱりオレンジ色に染まっていて、今日コンビニに飾られていたかぼちゃお 化けみたいな色に頬は染まっているのだろう。
それは夕日のせいだけでないことは俺も長太郎もきっと充分分かっている。
耳が赤い。
きっと後ろから見ても分かるくらいに。

寒くもないのにマフラーに頬をうずめながら手をポケットに入れたら、また一粒残されたミントガムの 存在を思い出した。
火照って仕方のない頬に長太郎からもらったマフラーが触れている。
それすらもオレンジ色に染まっているのになんだか笑ってしまった。
もうすぐ長太郎が追いついてくる。
あと三歩ぐらいか?
近くなる足音を数えながら宍戸はそれまでに頬の熱が収まっていることを願った。



お菓子のないのを理由におれんじ色のいたずらをキミに。
そんな日もたまにはいいかもしれない。












最後の方の展開は決まってたのに、他がなかなかかけませんでした。
変なところで2つにくぎってしまったので、少し分かりにくいかな。
ハロウィンって、楽しそうで結構好きですv(特に何かしたりしないんだけどね)









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