「気持ち〜〜!!ねぇ、不二も一緒に泳ごうよ」
熱い熱い日差しの中、菊丸英二はそう言ってひまわりのように笑って見せた。



 青学的プール概念




ぱしゃんっ

軽やかな音を立てて水が撥ねる。
波紋を描くように飛び散るしぶきを眺めながら不二はもう一度水に浸した足を振り上げた。

ぱしゃんっ

先程と同じように太陽の光を反射してキラキラと光りながら舞い散る雫に不二は目を細める。
「不二ぃ〜、足しか水につかってないじゃんっ!こっちきて一緒に泳ごうよ〜」
プールの淵へ腰掛けたまま足だけを水に浸して涼んでいる不二へ英二は何度目かの声をかけた。
せっかくの貸しきり状態のプールなのに一向に泳ごうとしない不二を英二は面白くないといった風に ぶくぶくと半分顔を沈めながら上目遣いで見る。
不二はさらりとした淡い色の髪に水面の模様を映しながら拗ねている親友に笑って見せた。
「もうちょっとしたらね。英二こそ、ウェアそんなに濡らして大丈夫なの?」
「平気平気〜!帰りは制服で帰ればいいし」
「下着は?」
「へっ?……あっ!」
今思いついたというように声を上げた英二に不二はしょうがないといったように笑いかけた。
「もう遅いみたいだね」
「う〜、まぁいいやせっかくだからこのまま遊んじゃおう!」
水の中で楽しそうにはしゃぐ英二を不二は眩しそうに見つめた。
確かに、貸切状態のプールで二人で遊ぶのは楽しい。けれどやはり、これだけの広さに二人きりとい うのは物足りなくて。
いや、もったいないと言った方がいいだろうか。
「あ〜、他のやつらも誘えば良かったかなぁ」
同じことを考えていたのか英二がぷかりと仰向けに浮きながら不二を見上げた。
「そうだね。貸切だもんね」
せっかく忍び込んだのにそれでは面白くない。
不二は何か面白いものでもないかと視線をフェンスの先に彷徨わせた。
だが、夏休みの今は人影など容易に見つけられるはずもなく・・・。
「あれ?」
不二がふとフェンスの遥か先からこちらへと歩いてくる人影に気が付いた。偶然とは面白いものだ。 不二の唇が弧の形を描く。
向こうはまだこちらには気付いていないようだ。不二は彼らが近づくのをそっと待った。

「ねぇ、桃に越前君。二人ともこっちに来ない?」

数段高くなった位置から、見下ろすように声をかけた先には、見慣れた後輩が二人。
「へっ?あ、不二先輩?そんなとこで何してんスか??」
桃城と越前はプールの淵に腰掛けて手招きをする不二に驚いた声を上げ、ついで興味を持ったのかフ ェンス越しに中を覗き込む。
「も〜も!俺もいるんだけど〜?」
「あ、エージせんぱ・・・・って、マジで何してるんすか!!」
ウェアどころか全身びしょ濡れのままでプールの中から楽しそうに笑う英二に桃城は今度こそ驚いて 声を上げる。
後輩の反応に満足いったのか英二は二人に向かって楽しそうに手を振った。
「見て分かんない?水浴びだよんっ!!二人ともこっち来い〜」
全くこの人はという風に呆れた目をしながら越前がため息を着く。
桃城は面白がって靴を脱ぐとフェンスを軽々と乗り越えて英二のそばに歩いていった。
「ほら、早く早く!!」
「はいはい、分かって・・・どわっ!!」

ばしゃっ!

「冷て・・・っ!」
桃城は不意打ちで水を被って思わず声をあげた。
「油断大敵ってね〜」
横で見ていた不二も声を立てて笑っている。桃城は犬がそうするようにふるふると頭を振って、被っ た水を振り落とした。
そうして、苦笑しながら濡れた服の端を持ち上げる。
「でも先輩たち、こんなとこ部長に見つかったらただじゃすまな・・・・」

どんっ!

「?!」

バシャンッ!!

「え〜ち〜ぜ〜ん」
桃城は水の中から恨みがましい声を上げた。
そう、水の中から。
突き落とした本人はさして気にした様子もない。英二はリョーマの動きには気付いていたらしく、避 難のために少し離れた場所から笑い声を上げていた。
「もう濡れてたし。それだけ濡れてたらいくら濡れたって同じでしょ?」
飄々と言ってのけるリョーマに桃城も諦めたようにため息をつき、いつもと同じ飄々とした笑顔を向 けた。
「ならお前も俺と同じ目に合え!!」
プールの淵へ立っているリョーマへと桃城は水を浴びせかける。
リョーマはその水を紙一重でかわして不適に笑って見せた。

「まだまだだね」

「おチビ、なっまいき〜」
今度は英二が水を投げかける。続いて桃城が時間差攻撃。
リョーマはその両方を軽やかにかわして見せた。けれども水がかからない後ろへと後退するのではな く、あくまでぎりぎり水のかかる位置を動かないということは彼もそれなりにこの水遊びを楽しんで いるということなのだろう。

「データ通りだな」
「何してやがんだ。てめえら」

そこへ呆れたような声と共に乾と海堂が顔を出した。こちらは一応正規の入り口からである。
現れた二人に、水の中から桃城と英二、プールサイドからリョーマと不二がそれぞれ片手を上げる。
「乾達も来ちゃったの?」
ひらひらと手を振りながら、英二がお前達も遊んで行けー!と声をかける。
乾は海堂を連れてプールへ近づくと、不二へと声をかけた。
「楽しそうだな」
「まぁね」
「楽しいよ!ってか、俺を無視するなーー!!」
くすくすと不二が笑う。それを見た乾がふむと頷いて、おもむろに。
「海堂も少し遊んでおいで」
「どわっ!!」
言葉とは裏腹な楽しそうな声で乾は海堂をプールへと突き落とした。
高い水しぶきが辺りを覆う。
海堂愛用のバンダナがプールの上を所在投げに漂った。
「てめえは何しやがる!!」
海堂はすぐに水から顔を出して、憤怒の形相で突き落とした本人を睨みつけた。

「うわ〜、海堂、お前情けねーな情けねーよ」
「んだとっ」
「桃先輩も似たようなもんじゃないっすか」
リョーマが呆れた声を上げる。
「それはお前が突き落としたからだろ!!」
「てめぇも突き落とされたんじゃねぇか」
「うるせぇ!てめぇに言われたくねぇぜ!!」

いつものやり取りを尻目に、リョーマが狙ったように乾の背後を取った。
乾は前を向いたままだ。それに気付いた面々が、気付かぬ振りでその行動を見守った。

よし、行けっ!越前!!

桃城が心の中でガッツポーズをとる。
プールのふちでバンダナの水気を絞る海堂もさっきのことがあったせいか止める気はないらしい。
英二も不二も事の成り行きを楽しそうに見つめている。
皆が見守る中、リョーマがにやりと不敵な笑みを浮かべ、勢いよく腕を突き出す。
その瞬間、プールに何度目かの水しぶきが上がった。

「っ?!」

だが水につかっているのは予想していた人物ではなく、まだ一度も水につかっていなかったリョーマ だった。
落ちたと思った乾はいつものようにノートを手に逆行にその眼鏡を光らせている。
「甘いな越前。お前がその行動を取る確立は・・・・」

どんっ。
ズバシャーン!

だが乾はお得意の解説を最後まで口にすることもなく水の中へと勢い良く突き落とされた。

「海堂・・・・」

乾が少し驚いた顔で目の前の人物を呼んだ。
いつのまにかプールから上がり、後ろへと来ていた海堂が突き落としたらしい(ちなみに眼鏡は外れ なかった)。
可愛い後輩の行動を予測できずに乾は水の中で悔しそうにつぶやいた。
「まさかお前がこんな行動をとるとは。予想外だ」
それでも咄嗟に手にしていたノートを放り投げて非難させたのは流石だ。
なんというか、流石はデータマニア。

「フンッ」

知らん顔で服を絞っていた海堂へと、その場の面々から賛辞が飛んだ。

「お、海堂もやるじゃねーか!」
「うるせぇ」
「かおるちゃん、ナーイス!!」
「やるじゃない」
「やるっすね」
「お前たち、そんなに俺が水に落とされたのが嬉しいのか」

複雑な面持ちで乾が呟くのに
「当然でしょ」
不二だけが即答で返した。


そんなこんなで充分に水遊びを堪能し、全員がウエアを水浸しにした頃。
何というか、これだけ騒げば当然のことながら、鬼部長の雷が落ちた。

「何をしている、お前たち!!!」

突然プール中へと響き渡る怒声。
眉を吊り上げる手塚の横には、困った顔をした大石がいる。その様子を見るからに、皆がここに集ま っているのは予想していたらしい。
いや、楽しげに手を振るダブルスの相棒の行動パターンを読んだだけかもしれないが。
流石は黄金ペア、である。
姿を現した手塚達に、しかし皆の反応は結構以外だった。
面白そうに見守る者と、少しだけ戸惑った顔。

ようするに、反省の色なし。

まぁ、この場合、共犯にしてしまえばいいのだと最初に考えたのは誰だろうか。
何故ならすでに(鬼部長にとっての)危機は迫っていた。
そんな中で乾が手塚に声をかけた。間に合わないのは承知だったかもしれないが。
「あ、手塚そこにいると・・・・」
「?」

どんっ!!
ばしゃーんっ!!

「不二に突き落とされる確立90パーセントと言おうとしたんだが・・・・遅かったようだな」
乾の楽しそうな声に、手塚が水から怒りを露に顔を出す。
結局全員が水を滴らせる結果となりながら(大石は英二に誘われて諦めたように水に飛び込んだ)、 不機嫌そうな手塚も(無理やり)交えて、面々はそれなりにこの水遊びを楽しんでいた。
結局全員が用途をなさないほどウェアを濡らす頃になっても暫くは、水遊びは続くこととなる。
タカさんが、呆れた顔の竜崎顧問を連れて現れるまで。

ちなみに。


「部長の髪って、水に浸かるとそうなるんすかっ!!ありえねぇな。ありえねぇよ」


驚いた声を上げた桃城の言葉の真意は何だったのか。
それはプールにいたメンバーだけが知っている。












夏休みの部活ということが全くもって生かされてない(汗)
書いている途中まで、メンバーが足りないことに気が付いてませんでした(後から付けたしたけどね!!)
・・・部長だけでなく、副部長の髪もミラクルだと思うのですが、如何か。









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