「ホントに不器用なんだから」
「うるさい」
呆れたように言葉を紡いだアルフォンスに、エドワードは顔を背けたままで反論した。
その、僅かに垣間見える耳たぶが赤く染まっていることに気づいて、アルフォンスの呆れたようなため
息は柔らかなものに変化する。
ホントに不器用なんだから。小さな声でもう一度呟かれた声には呆れとは違う、微笑ましさが溢れてい
た。
敷き詰められた赤いレンガの上を歩いていく。
重低音を奏でる鋼の足はそれでも軽そうに、陽に暖められた赤の上を蹴った。
手にはエドワードには少し大きめの紙袋。それを大事そう、というよりはもっと複雑な表情で、それで
もしっかりと抱きかかえながら、エドワードは目的地へとまっすぐに進んで行った。
その後を、アルフォンスが幾分ゆっくりとした歩調で追っていく。急ぎ足とも思える兄との距離が全く
と言っていい程開いていないのは、悲しすぎるコンパスの違いのせいだった。
不器用というよりは、意地っ張りなのかな。
アルフォンスはのんびりとそんなことを思う。
あの時の兄の顔、大佐にも見せてあげたかった。
ほんの数日前、彼らは別の街にいた。それ自体はさほど珍しいことではない。根無し草を信条とする彼
らが特定の場所に居座ること事態が、彼らにとってはなかったのだから。
しかしそれは、少し前まで、であると弟のアルフォンスは思っていた。
根無し草の自分たちに、唯一、帰る場所が出来た。
イーストタウン。更に正確に言えば、東方司令部執務室。
そこまで細かに場所が限定されているのは、彼の兄が国家錬金術師だからという訳だけではけしてない
。それは一重に、ある人物のせいであった。
ロイ・マスタング。
東方司令部の大佐でありながら、焔の錬金術師の名を持つ、東方司令部執務室の主である。
彼の評判は、若くして大佐の地位まで上り詰めたやり手だとか、ルックスがいいだとかの街の評判から
、仕事をすぐサボるだの無能だといった彼の部下からの話など話題にもきりがない。
だが、今はそんなことは関係がないだろう。
関係があるとすれば、そう、今日がロイの誕生日であるということである。
それが、今まさに彼らがこのイーストタウンにいる理由なのだ。
あの時の兄さんは面白かったなぁ〜。
実は、アルフォンスはロイの誕生日を覚えていなかった。というよりは、知らなかったのだ。
そんな彼が、こうしてプレゼントを手に(エドワードとは別に、彼も用意したのだ)このイーストタウ
ンにいるのは、兄のおかげである。
・・・エドワード本人には非常に不本意な結果ではあったが。
きっかけはまさに昨日。
それはエドワードの一言から始まった。
「きっとプレゼントの山でも待ってるんだぜ?いい年して誕生日も何もないだろうにな〜」
そう言ってからかうように言ったエドワードは、次の瞬間、自らの弟の言葉で一瞬にして凍りつくこと
になった。
「え、そうなの?大佐の誕生日だなんて知らなかったよ。よく覚えてたね」
アルフォンスは本をめくっていた手を止める。
いつも目の仇にしているロイの事を兄が口にするのは珍しくはなかったが、その内容には興味があった
。
それに。
だから、この兄はここ数日そわそわしていたのだと、原因に思い当たってアルフォンスは感心したよう
に声を上げた。
エドワードが固まる。それはもう、自分の失敗を自覚したように。
「でも兄さん、大佐の誕生日なんていつ知ったのさ」
聞かれても答える気力もないのだろう。
固まった表情はすでに崩れて砂になりかけていた。
その理由は、エドワード自身の台詞によって明らかになった、以下の点が、彼の羞恥心を見事にMAXま
で押し上げたからだ。
もちろん、兄と同等に頭の回転が速いアルフォンスもすぐにその意図する意味を理解してしまった。
「兄さん、大丈夫?」
エドワードの心境。
末代までの恥。
そう思ったとか思わなかったとか。
ちなみに、明らかになったのは次の3つ。
@誕生日を自分だけが知っていたこと
Aそれを覚えていたこと
B意識していたこと
その全てを自ら示してしまったことに瞬時に気が付いたエドワードは、耳まで真っ赤にして完全に停止
してしまったのだった。
と、まぁ理由はそんなものだったが。
潔くプレゼント(それを買う時にも彼なりにかなりの苦悩があったらしい)を用意し、隣町であるイー
ストタウンへ(すぐに行ける距離に自分達がいたのは偶然なのだろうか?)やってきたのだから、少し
は進歩したのだろう。
アルフォンスの用意したプレゼントは、使い安そうな万年筆と手帳。
エドワードが用意したのは、わざとセンスのないものから選んだらしい、真っ赤な雨がっぱ。
だけど、抱えた袋の中にこっそりと胃薬と「おめでとう」と一言書かれたメッセージカードをすべりこ
ませていたのを、アルフォンスは知っている。
ホントに不器用なんだから。
きっと、彼と対面してしまえば素直にお祝いなど言えるはずもないのだと、分かっているのだろう。
だから、これがエドワードなりのお祝いなのだ。
使えるはずもないカッパと、少しの労わりを込めた(けど、からかってると言い訳できるような)胃薬
と、本当の気持ちをのせたメッセージカードと。
最初になんと言って切り出そうかと真剣に悩んでいるらしい兄の姿を見て、アルフォンスは心が温かく
なるのを感じた。
エドワードが、彼らしい表情をよく見せてくれるようになったから。
それは、同じ罪を背負う自分では、なし得なかったことだ。
何より、自分はエドワードの弟なのだから。
彼は、自分の前では“兄”という存在であらなければなかった。
「兄さん、久しぶりなんだから喧嘩なんてしないでよ?」
「う・・・分かってるよ」
そうですとも。本当は、喧嘩したいと思ってる訳じゃないもんね。
「久しぶりに皆と会えて嬉しいね」
「そうかぁ?まぁ、ホークアイ中尉達に会えるのは嬉しいかもな」
きっと気づいてない。
今、どんな顔で笑ってるか、なんて。
兄さんにそんな顔をさせるなんて、やっぱり大佐には感謝なのかもしれない。
「・・・意地っ張り」
「ぁあ?」
・・・兄さんが実は大佐のプレゼントを選ぶのに2時間かけたって教えてあげようかな。
エドワードが聞いたら、恥ずかしさに卒倒しそうなことを考えて、アルフォンスは笑う。
そんなことをしたら、怒りも沸騰状態で、執務室が地獄絵図になってしまうかもしれないからしないけ
れど。
本当は、お互いの気持ちに気づいてないのなんて本人達だけだよ、なんて言える訳もなくて。
ああ、全く
「ホントに不器用なんだから」
ぽそりと、小さい声で。
まぁ、不器用なのは兄さんだけじゃなく、相手も負けず劣らずなんだけどね。
「?何か言ったか?」
「ううん」
本当は、兄さんが来たときだけは機嫌がいいとか、仕事が速い(食事に誘ったりすると、その日の分の
仕事はきっちりと終わらせているらしい)とか、ホークアイさん達に聞いたのだけど。
その時は、実は兄さんもだよ、と心の中で付け加えた。
なんだかんだ言って、楽しそうなんだもん。
「それより、早くいかないと休憩時間に間に合わないよ」
「別に、間に合わなくたっていいんだけどな。・・・たいした用じゃないし」
そう言いながらも、足を速めたりして。
そんな後姿をみながら思う。
不器用な二人なりに、今日という日は特別な日になるんだろう。
微笑ましいね。
高みで見物という訳ではないけれど。
それでもそれが彼らの歩く道だから、どんなに不器用でもいいのだとアルフォンスは思った。
急がずに、
彼らのペースで。
それがとても彼らに似合っていたから・・・。

副題「それが彼らの歩む道」
ほのぼの目指して書いてみました。ラブラブ一歩手前。
こんなロイエドはいかがですか?
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